なんだこれは

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名無しの彼女たち

降臨際のアレについてこんなこと言われた。

「lambda抽象」に若干反応。残念ながら典型的な降臨派投げっぱなし目スーパー系であり特に印象的ではなかった。

http://neo.g.hatena.ne.jp/xx-internet/20090116/p1

他にもきめぇ、きもい、だめだめ、SFちっくでよいとかえろえろじゃなくていろいろなことを聞いたんで修正してみた。


空から女の子が降ってくる。毎日のように。そこかしこに。まるで雨か雪のように。いろいろな女の子が。背丈は10~15cmくらいで、空から降ってきた彼女らは妖精と呼ぶとわかりやすいのかもしれない。降ってきた彼女らは地面についた後、消えてしまう。降っては消え、降っては消え。つもることは無い、儚い雪のようだ。

他の人には見えていないことは理解している。それは幼稚園に入る頃だ。家族と親友にだけ告白したことがある。父は何を思ったのか、何も言わずにニヤニヤ笑っていたことを憶えている。それ以来誰にも言っていない。誰にも理解されないからだ。

特にこの現象に名前をつけていない。lambda抽象*1、あるいは無名関数*2のように空から女の子が降ってくる現象と呼べばいいかもしれないが、特に名付ける必要を感じたことはない。僕にだけの現象で誰にも話さないから、名前が必要がないのだ。

「らんぶだって何?」ラムダだよ。彼女は地面に着いて消えた。

それはまるで彼女たちが無名で現れて無名で消えるように。この現象のインスタンスな彼女たち。インスタントな彼女たち。そして降り注ぐ彼女たち。一人一人が名付けられることを拒否しているのかもしれない。

こうして書いている間にも、彼女らは僕に話しかけたり、囁いたりする。「何書いてるの?」/「あっちにカツラ、ばればれの人いたよ。」/「新作のドーナッツってどんな味なの?」などなど。彼女らはきまぐれだし、同じ人格/記憶の彼女が降りてくることはないってのは言ったっけ?そう、会話は常に最初から始まるので、たわいない会話しかできないのだ。

彼女たちは空に生成されて着地で消滅する。そのことをどう思っているのかは聞いたことがある。
「君らって地面につくと消えちゃうよね。その辺どう思ってるの?」
「だから何?アンタだって永久に生きて無いじゃん。高々100年で死ぬでしょ。ーー私はちょっと短いだけでーー一緒じゃない?」
そうかもしれない。
彼女は消えた。笑って消えていた。
僕も笑って消えられるだろうか?

彼女らは耳元に降りてきたときに話しかけてきたりする。テストの時など、屋根があることを恨めしく思った。彼女らは上から降りてきて、屋根に着地して消えてしまうのだろうか、それとも屋根をあるいたり、たむろしているんだろうか。そもそも、どうして降ってくるんだろう。どうして消えるんだろう。どうして僕だけなんだろう。
空から彼女らは降ってくる。
「そんなこと気にしてないで、パン屋の角にいる女の子でも口説きに行ったら?」こういって彼女は消える。
「あら、かわいくてあなたにはちょっともったいないかもね。」

このときは何の気なしに、パン屋の角に行き、女の子に出会って、そのまま5年つきあって、結婚した。気がつくとあの彼女たちは降ってこなくなった。あの彼女たちはなんだったんだろう。見なくなった彼女たちのことは忘れてしまった。

それから完全に忘れていた彼女たちのことを思い出したのは息子のおかげだ。
「どうして、お空から女の子が降ってくるの?」
はっとさせられた。親父のニヤニヤ顔の意味がようやくわかって俺はニヤニヤとわらってしまった。

*1:無名関数の別名

*2:プログラム言語で名前のない関数、例(\x -> x * x)は引数を2乗する関数という